夏の日の温故知新

「レトロ」、僕はこの響きにとても弱い。何だか懐かしさを憶える言葉だ。
現代社会の中では必要なくなった物、忘れさられていった物を手にした時、とても温かいような懐かしいような
感覚に陥るのだ。それは自分が生まれるよりもっと前の物だったとしても同じ感覚になってしまう。 きっと僕を
作っている先人のDNAの記憶が懐かしいと思うのだろう。

なぜ、こんな前置きをしたか・・・それは今回の釣行のスタイルに関係するからだ。今回は友人を連れて庄川水
系の谷にミノーの最終テストに行って来たのだが、麦藁帽子、日本手ぬぐい、背中みの、と田舎の農夫スタイル
で釣り上がる事にしたのだ。

車を降りて身支度をすませ最後に背中みのを羽織ると、友人が「なんだ、そのワラ?」
っと言う。待ってましたとばかりに友人に説明する「みの、だよ!ほら、ばぁ〜ちゃん達が畑仕事する時にしてる
やつ。ワザワザ背中に羽織って熱そうだけど、直射日光を遮ってくれっから、してる方がスッゲー楽なんだよ。ワ
ラで編んであるだけだから通気性もバッチシだしな、そのうえ雨が降ったらカッパ代わりにもなんだぜ!岐阜の
ヤチ坊主とでも呼んどくれ!!」っと息を荒げて説明すると。「ふぅ〜ん」と、まったく興味なさげだった・・・
まぁいい。所詮は遊びだ、自分が満足できればそれでいいのだ。

さて、藪を越えて川に出ると眩しい程に太陽の光が差し込んでいる、こんな夏の谷では
ブッシュ下からイワナが飛び出す事が多い、川上からブッシュの前にキャストしてから、
ラインを送りこんでブッシュの下にミノーを入れてやる。そこで細かくトゥイッチを効かせ
て誘いをくれてやるのだが、この時、逆引きに耐えられないような流れに弱いミノーは使
い物にならないので要注意だ。 反応は直ぐにでた、元気な谷イワナだ。数百m釣り上
がった所で4匹程出して次の谷に向かう事にした。

夜勤明けの友人が、「体が持たない」というので2時まで昼寝をして過ごした。誰に何を
言われる訳でもない、自分達だけの時間がゆったり流れている、ゴザをひいて木陰で
横になると、爽やか風が頬を撫でる。最高の休暇だと確信する瞬間だ。

後半戦は更に小さな小川に入る事にした。立ち居地、間合い、キャストの精度が更に要
求される場所だ。 二人でストーキングをしながら小一時間釣り上がるとイワナ最大26
cmを含む7匹と、友人が、谷アマゴのグッドサイズを仕留める事が出来た。この後別の
場所でちょこっと竿を出してアマゴとイワナを4匹釣った所で日が暮れてタイムアップと
なった。

この日は、30℃を超える真夏日ではあったのだが。それだけに麦藁帽子の通気性の良
さ、手ぬぐいの肌触りや、汗の吸いの良さ、そして背中みのの快適さを痛感する事が出
来た釣行となった。 なぜ、古くから長い間使われてきたのか、良い物には良い物の訳
があるからだろう。最新鋭の近代マテリアルも開発の原点は昔から使われてきた物の
中にある事も多い。

『古きを尋ねて新しきを知る』、温故知新の精神を忘れてはいけないようだ。