山奥のシンドラー昆虫記

8月、有恒氏、制城氏、小池君と共にキャンプフィッシングに行く事になった。
人里離れた山奥の奥、獣と昆虫と植物だけの世界に足を踏み入れる神聖な時間の始まりだ。初日は、道路脇にテントを
設営しながら各自思い思いのスタイルで、釣りをするやら昼寝をするやらしてマッタリと時間が過ぎていった。僕はと言え
ば夕食を獲りに小谷に入る、一時間釣り上がった所で人数分の塩焼きサイズが揃ったのでテントまでひきかえしてきた。

2日目の朝、テントを出ると、夜の間に少し降っていた雨もすっかり上がっていた。山々には薄っすら朝霧がかかってなん
とも清々しい気持ちになる。3回深呼吸をすると体が森に溶け込んで行くのが良く分かった。朝まずを少し楽しんだ後、朝
食を食べる事にした。食パンにベーコンとウインナーとレタスを挟んだだけのサンドイッチだが、何故かこんなロケーション
で食べると格段に旨いものだ。

朝食を終えてテントをたたむと大本命の谷に行く為に出発した。林道を車で途中まで行き、車を降りてから2時間ひたすら
歩いてやっと辿りつける場所。魚の数も半端ではないが、そこは熊、猿、猪、鹿などのテリトリーだ、鈴を携帯しながら、気
は引き締めて歩かなければならない。現に移動してくる途中に車の中からではあるが道路を横断している熊を目撃したの
だ。こんな事は極めて稀な事ではあるのだが、やはりそうゆう世界に足を踏み入れているのだと再確認する出来事だった。

しかし、ある程度の知識があれば、完全にとは言えないにしても、ある程度の危険は回避できるし、普段目にすることの出
来ない感動が待っているのも事実。ナナフシやサンショウオ、オオクワガタも発見する事が出来た。  幼い頃昆虫図鑑を
開いてはワクワクしていた気持ちは今でもまったく変わる事無く、大きな少年達は寄ってたかって「スゲースゲー」と声を上
げる。自然の中で遊ぶとは多分こういう事なんだろう。

ポイントに着くと二手に分かれて釣りをしていく、僕は有恒氏と釣る事に。年に何人の人間がここを通るのだろうという古い
橋の上から川を見下ろすとイワナが其処彼処に泳いでいるのが見えた。「パラダイス」この川程この言葉が似合う所は無
いとさえ思うような魚影の濃さだ。源流の夏イワナに食性を合わせる為38mm虫型ミノーをチョイスすると、グッドサイズが
3,4匹束になって追いかけて来る。手を替え品を替え色んなルアーを試したがやはり虫フォルムの物が一番食いが良か
ったような気がする、但しギリギリまできて食いきらない固体も多かっただけに、もう少し違うモノを捕食していたのかもし
れない。勿論谷釣りには視覚性の良いチャート系のカラーは外せないのだが・・・

一時間半程釣り上がって二人と落ち合うと、案の定二人ともホクホク顔だった。話を聞くと、僕達よりも大釣りが出来たよう
だ。帰り支度を済ませて谷水をペットボトルに給水する、ついでに頭から水をかぶると疲れた体がキリット引き締まった。
「さて、帰りますか」と誰かが言う。  
次は何時来れるだろうか・・・
僕達は、尽きる事の無い釣果の話をしながらゆっくりとしっかりと岐路を目指し歩き始めた。