毎年田んぼに水が引かれ田植えの準備が始まる頃、長良川の至る所に腰まで浸かって竿を振る姿が本格化しはじめる。
5月の風物詩サツキマスを狙い全国各地からアングラーが夢を乗せて訪れるのだ。そもそも5月を指す『皐月』とは稲穂の
苗、早苗(さなえ)を田に植える月と言う時期、早苗月から皐月と呼ばれるようになったと言われており、サツキマスが産卵
の為に海から長い旅にでる頃、早苗たちも秋に黄金色の稲穂を沢山垂らせるようにしっかりと地に足をつけ太陽の恵みを
燦々と貰いながら成長を続ける。  毎年GW頃に私の家も代かき、あぜ起し、田植えの一連の行事を家族総出でするの
だが、生命を感じる仕事はしていても心地が良いもの。しかし、朝夕のゴールデンタイムともなるとサツキマスの事が頭中
をグルグル回り始めるのもこの頃からだ・・・

知り合い等から、追って来た、ばらした、釣ったと情報が入り始めて数日後、やっと待望のしっかりまとまった雨が降って
くれた。水位が高くなって魚が動き始めた気配を体でプンプン感じる事が出来る、遠方の方には本当に申し訳ないが20
分もあればポイントにつけてしまう距離に住んでいるので朝飯前に行けてしまう、何時でも行けるので普段は満員御礼の
土日は外すのだが、この日はどう考えても外してはいけない状況だったので、近所の悪友を誘ってAM5:00から開始した。

流石に有名ポイントは釣り大会でも行われているかのような大賑わいで入る隙間すらないので、流しながら入れそうなポ
イントに移動する、最初のポイントは流れがテトラに当たり緩やかにカーブして広くなる所、上に向かってハント、アンカー、
テストモデルのアンカー90mmなどを打つもまったく反応がないので改造スプーンで補助攻撃したが不発に終わった。 
 何かが違うと思い30分で早々に移動、ゴールデンタイムのランガンは移動時間がもったいないので、何時も非常に悩
むのだが、ここが釣り師の賭け場でありシックスセンスが問われる所だ。

AM5:40別のポイントに到着、対岸には人が居るがこちら側には誰も入っていない、凛とした空気が気を一層引きしめ
た。瀬の頭にある岩にぶつかって二つに分かれた流れの間を漂うように軽くトゥイッチをかけながら流す、重たい流れを
感じながら巻いてくるとフワッと軽くなる所がある、あそこに居る、きっと居るはずと信じてミノー、スプーンと変えながら
一点集中で攻めていると、雅にそのポイントを抜けた瞬間、カンッ!!っと引っ手繰るような当たりがあった、空かさず
フッキングすると流れの中でもだえてローリングしているのが分かった、「来たっ!」二ゴイなれしすぎて最初はまたか?
とも思ったが一向に抵抗を止めない強い引きにサツキだと確信した。ガッチリフッキングしている事を確認して少し安心
した、去年は何度も泣かされただけにそれでも最後まで慎重に取り込む、ネットですくってもらい何とか今年最初のサツ
キマスを手中に収める事が出来た。鮭と言うにふさわしい筋肉質な体高あるボディー、薄っすらと残る気品溢れる朱点、
己の死を予感しながらも激流を走破するためにキリリと立ったヒレ、「儚くも美しい」とは彼らの為にあるような言葉だ。計
ると43cmあった、立派なサツキマスだった。

その後、同行してくれた悪友が15cmはあるヌマチチブをミノーで釣り、ホンワカした気持ちになった後もう一回
同じポイントで引きたおして同サイズをかけたが根本までグルングルン伝わる程のローリングをくらいバラシてし
まった。本来なら二匹そろった絵を撮れたのだが残念でしょうがない、夕方にも少しだけやってみたが、一回追
って来たっきりで、足元に呼吸をしにきた1mはあるオオサンショウウオがニヘッっと笑いかけてくれただけだった、
次回に期待するとしよう。 次の大きい降雨は何時だろうか、又サツキが動く時、私の運も又動くような気がして
ならない。

早苗の月の出会い