11月も、もう終わろうとしている。今月は結局水辺に立つことは一度も無さそうだ。里の山々も紅に色付き、秋も
深くなる頃、今年は少し早く初霜が降りた。田舎の秋は冬に向けてそれなりに忙しい。私の家には田んぼもあれ
ば畑もあり、季節事に色々な作物を育てて大地の恵みを頂いているのだが、この時期はサツマイモ、サトイモ、
ハクサイの収穫が重なる為、なかなか小忙しい時期でもあるのだ。

サツマイモは収穫までそれ程手間は掛からないが強い霜が下りると芋がしみて(冷凍焼けのような状態)悪くなる
ので霜が下りる前に掘り取りをするのが普通だ。田舎の方では霜の降り始めにあちらこちらでサツマイモを急い
で掘り出している光景を目にする事ができる。 私の家もご多分に漏れず11月前半には家族総出で芋掘り大会
が開かれるのだ。こうして掘り出された芋達は味噌汁の中に入ったり3時のおやつになっり色々変身するのだが、
取り分け大好きなのが『切り干しイモ』だ。ばあちゃんが作ってくれるこの干しイモは、大きな鍋でじっくり茹でて、
昼間は天日で干して夜はしみないように家に戻す作業を繰り返して出来る。お手間入りの切干しイモなのだ。あ
まりに美味しい為、干してある段階で皆が盗み食いをするので、完成までにかなりの数が減ってしまうという最高
のおやつだ。3月の凍える雪の中のビックフィシュハンティングの際も、疲れを癒す簡易食として何時もポケットに
忍ばせてある。

そして、しばらくすると今度はサトイモ掘りが待っている。サトイモはサツマイモよりは
霜に強いのだが、家の場合あまり寒くなってからやると人間の方が凍えてしまうので
12月前ぐらいには終わらせておく。霜で枯れたダツを草刈り機で切り落とし、トラクタ
ーの後ろにつけた掘り起こし機でひとうね事に掘り起こしていくのだ。沢山掘り起こさ
れたサトイモは長方形に掘られた穴の中に一旦入れて貯蔵しておくのが普通で、そ
の為の穴掘りが地味に重労働なのだ。

畑一面に掘り起こされたサトイモは周りについた土を軽く落とした後、一輪車に乗せて
穴まで運ぶ。運ばれたサトイモは穴より更に高く積み上げて山を作っていくように置い
ていく。そこにワラを葺いて屋根を作り、土を更に乗せて重しをしておく。 

何処の田舎でも見られるイモなどを貯蔵する為のワラの合掌作りだが、昔の人は本
当に賢いものだと関心させられる。そのまま土の中で掘り起こさずにいたら、しみて悪
くなってしまうイモ達も、ワラと土で壁を作る事でどんな霜にもドカ雪にも耐える事が
出来るのだ。それにワラという素材を使う事で屋根の頭の部分の隙間から適度に空
気抜きができ、中で温度が高くなりすぎて蒸れてしまうのを防いでくれるのだ。

合掌作りと言えば岐阜県には白川村の萱葺(かやぶき)合掌集落があるが、この地
域には『結(ゆい)』という考えが昔から伝わっている。萱で屋根を新しく葺き直す作業
は到底いち家族で出来るものではない、そこで集落みんなで助け合い今年はこの家
を皆で手伝う、来年はあの家をっと言う具合にどんな事に置いても、かばい合い助け
合う精神が根付いてきたのだ。

ある程度の面積で作物を収穫するという事はけして楽な事ではない。今年も親戚の
方や自分の親友達が一声で快く集まってくれて予想より早く作業を終わらす事が出
来た事に感謝の言葉が尽きない。まだ3歳にもなっていない甥っ子までが『じぃちゃん
手伝うぅ〜』っと言って畑にやってきた。

皆で腰を下ろし3時の一服をしながら談笑にふける空は、遠く澄み渡って何処までも
青く美しい。時代は移ろい変わろうとも、生活のスタイルは変わろうとも日本人がつま
先から指先まで憶えている『結』の精神は薄れる事はないのだとワラ葺き屋根のイモ
屋は私に教えてくれているようだった。

冬が来る前に