九頭竜に育まれる鱒と友情

3月某日、『エゴイスト』の大嶋氏から、『今年も東京から清水君がサクラやりに来るから酒向君もこれたら来なよ!』っと、
連絡が入った。清水君とはスプーンブランド『シー・レーベル』
代表、清水康弘氏の事で、去年もサクラを狙いに九頭竜川
を訪れ、2人とも大嶋氏の自宅で寝泊りをせて頂いたのだ。
今回は清水氏と共に、某トラウト雑誌のデザインなどもされいるグラフィックデザイナーの太田茂氏も釣行に訪れていた。


二人は遠路東京からの遠征だが、自分はと言うと少し足を伸ばすと届く距離なので、スケベ根性を出して岐阜県側から峠
越えをして九頭竜川の上流にある九頭竜ダムを突付いてから下流まで釣り下る事にした。 AM9:00ダムのバックウォータ
ーに着くと、思いのほか雪が少なかった。やはり暖冬の影響は今年も続いているのだろうか。今年の夏も昨年の様に酷暑
日が続けば雪解けの水も少なく、渇水や生態系へのダメージが危惧されとても心配だ。


気をつけないとぬかるんで足をとられる泥を15分程歩いて釣りが出来る所まで降りると大きな鯉が水面で何やらやっていた、
何かしらの生命感が感じれる時は魚のコンディションも悪くない。鯉や鮒が動いている時はやはり同じ魚の鱒族も動けれる
状態にあるし、外道でウグイすら釣れない時は鱒族も釣れない事が経験上多いので、気持ちは否応なしに高まってしまう。


更に釣り下りながら流して行くと、運良く大嶋氏らに遭遇する事が出来た。大嶋氏の釣友、T社長も一緒にいらっしゃたので、
ご挨拶をさせて頂き、色々と貴重なお話をさせて頂く事が出来た。 結局この日はサクラの花は咲くことは無く日没を迎える
事になった。

しかし、この地に来るのはけして釣りだけが目的ではないのだ。釣りというジャンルを通して多くの出会いや、さまざまな生き
方の指標を学ばせてもらう事がある。 釣りだけに限った事ではないが、友人は数の多さではなく、『またこの人と会いたい、
話がしたい』と思える人が自分の周りにどれだけいるかの方が大切だと思う。そうした仲間は、絶えず会っていなくとも、久し
ぶりの再開で、昨日も会ったかの様に話が弾むものだからだ。 

そんな仲間達がこの地にいる、この地で集合出来る。自分は魚を釣る喜び以前に、こんなにも幸せな時間を持つ事が出来る、
本当に幸せ物だと思う。 一回りも違う人生の先輩方が、同じ目線まで落として話をしてくれたり、自分のようなまだまだ勉強
不足な物の話を真面目に聞いてくれる。自分が今までやってこれているのも多くの先輩方の助言や手助けがあったお陰で、
何時も『自分は人に恵まれている』と感じるし、だからこそ新しい出会いも大切にさせて頂きたいと思うのだ。

夜はウチラのリクエストで、福井では有名な串焼きチェーン店【秋吉】に夕御飯を食べに行って来た。他県にはないシステム
で串の頼み方も独特なのだが、頼んだ品を持ってきてテーブルの真ん中にある串置きにドンドン置いてくれるので目でみても
楽しめるし、お肉も美味しくあっという間にぺロット食べれてしまうのだ。清水氏と太田氏も串をつまみに美味しくお酒を飲んで
いるようだった。

しかし、残念な事に次の日の天気は雨・・・
夜のうちから降り始めた雨は、降ったり止んだりを繰り返して絶えず降り続いていたので、水位も高くなり濁りも時間をまして
濃くなってきてしまった。なんとも魚が動きそうな感じもしないままダラダラ時間が流れて行く。 PM1:30程までやった所で一
回休憩を入れに車に戻ったが、自分は次の日も仕事があったのでここで3人に別れを告げて岐路につく事にした。

川べりで談笑をしているとテレビ局の人が降りてきて、この辺でタクシー強盗が起きて情報を集めているとの事。その話を聞
いて大嶋氏が言っていた言葉が、今回の釣行をまとめて簡潔に答えを出してくれているようだった。
「なんでそんなつまらん事で人生棒にふるんだろなぁ〜。釣りしてればくだらん気もおこらないし、悪い事も考えんようになる
と思うんだけどなっ!」 釣りを通して、何かに打ち込む事の楽しさを知ったり、自然や人を敬う心を養えたり、共感しあえる友
を作る事もできる。海や川や湖は、けして生き物だけを育んでいるだけではない、そこに生きる人たちの心も養ってくれている
のだろう。

来月辺りに発売予定の鉛の手流し鋳造によるハンドメイドジグスプーンをキャストする。フィッシュライクなワカサギボディーの
スリムな形状は空気を切り裂くようにミサイルの様に飛んでいった。着水地点は対岸近くの流れが岬に当たっている所、魚
が入っていれば確実に通り道になる場所だ。

答えは直ぐに出た、10分もしないうちに最初の当たりがあり、その場所を丹念に探るとグィッっと重くなった。糸の先からグン
グンと魚の重さが伝わってくる。『そんなに大きくないなぁ』と思いながらよせてくると、綺麗な朱点の入った32〜33cmぐらい
の銀毛アマゴだった。サイズはともあれ今年最初のネイティブトラウトだ、うれしくない訳はない。しかし写真を撮ろうとした瞬
間ネットからニュルンっと逃げていってしまった。『あちゃ〜』と思わず叫んだが、まぁこれが50upのイワナじゃなかったから
良かったかっ!と思い先を急ぐ事にした。     なにせ、まだ河口までは程遠い地点にいるのだ・・・

その後、ビッグサイズは出なかったものの福井市街に下りる間にジグスプーンで数匹のヤマメに遊んでもらい、やっと鳴鹿の
堰堤まで降りた頃にはPM3:00程になっていた。