連日35℃を上回る気温が続く今年の夏。特に今年の東海地方は、去年、最高気温記録を更新した熊谷とならんで
日本トップの暑さを誇る、多治見市を始め猛烈な暑さになっている。

こんな暑い時には、やはり避暑地に逃げたくなるものだ。更に、そんな避暑地は釣り人にとって、かっこうのポイント
だったりする。 それに解禁当初はこぞって竿を振っている釣り人も、本当にいい思いをした事のない人以外は、パ
タッと減るものだから、特にトロフィーサイズを狙うには、誰にも邪魔される事無く自分の時間に浸れる季節なのだ。

そんな訳で、通いなれた道を北上して庄川に向かう事にした。

前日から現場入りをして、車中で一泊。白々と夜が明け、辺りは薄霧が立ち込めていた。ドアを開けると凛とした朝の
空気が車内に入ってくる。軽く身震いをして、流石に夏でもクーラーのいらない世界だなっと実感する。 ささっと身支
度をして戦闘態勢に入る。夏場は朝一のチャンスを逃すと、トロフィーサイズを狙える確立は半分以下に落ちるので、
一日で一番気合が入る時間だ。勿論、夕まずめもチャンスはあるが、ここまで日中暑くなってしまうと、水温が下がっ
て魚の動きが活発になる地合いが極端に狭くなるのでベストタイムは、ほんの数分ぐらいだったりするのだ。よって、
一晩経って水温が下がりきっている朝の方がベストタイムが長くとれる為、魚をキャッチ出来る確立も高くなる訳だ。

さて、ポイントまで歩いて行くと、水面にも薄霧がかかって、何ともナニかありそうな雰囲気が漂っている。ハント90
を結んでキャスト開始。しっかりとした流れのある場所なので、何処で食ってくるかを想像しながらライン取りをする。
水中のブレイクラインに付いているであろう魚を意識して、ナチュラルにハントを漂わせるのがコツだ。水流を受けて
不規則にユラユラしているハントは、きっと流れに頭を向けて上から来る獲物を狙っているハンターには、弱りきった
捕食しやすいベイトの様に見えるに違いないだろう。

そんな水中での出来事をイメージして流していると、遂にドスッという重いアタリの後に一気にドラグが走り出した。こ
のアタリ、確実にイワナだ。流れの本筋より向こうでのヒット、何時もより細めの6ポンドでは無理は出来ない。少しず
つ流れの芯から離そうとすると、下流30m程でテイルウォークをくらう。空かさず竿を下にして応戦。45cm以上はあ
りそうだ、っと思いながら、じっと我慢の時が過ぎる。途中、流れの中で底べったりに着いて岩の様になり、動かなくな
る事数分。時間をかけて沢山水を飲ませ少し弱ってきたのを見計らって、流れから離す。その間もラインは出たり入っ
たりを繰り返している。

何分やり取りをしただろう。ロッドを持つ右腕が少しだるくなってきた頃、やっと魚体は観念してこちらに近づいてきた。
やはりイワナだ。口にはガップリとハント90が真横に咥えられフロントフックもリアフックもしっかりフッキングしていた。
食い気立った、ハイコンディションの魚の咥え方だ。よく引いた訳だ、と関心する。そして慎重に無事ネットイン。二の
腕以上の体高がある凛々しい面構えのオオイワナだった。メジャーをあてると49cm。50cmには後一歩足りなかっ
たが、久々に記憶に残るファイトが出来た魚だった。

しかしだ、話はココで終わらない・・・
数枚写真を撮り、一先ず生かし袋にイワナを入れて、又キャストを開始する。せっかく地合いが来てるのだから、まだ
他の魚もやる気になっているはずだ。一匹の魚にモタモタしている暇はないのだ。 そして狙いは的中した。ルアーを外
して同じコースにキャストすると、着水の2秒後に一気にドラグが走り始めたのだ。流石に期待はしていたものの、雅か
次のキャストで又ヒットするとは思っていなかっただけに、「えぇぇ〜!」っと叫んでいると、相手はドラグを出したまま、絵
に描いたようなテイルウォークをして、ハントを吹き飛ばしながら行ってしまったのだ。姿からも今釣ったイワナと同サイ
ズ、いや、ドラグの出方からすると、それ以上だったのかもしれない・・・

釣りの女神様は、どうやら今回も課題を僕に出してくれたようだ。
なぜ、この魚は獲れて、あの魚は獲れなかったのか?あの時どう動いたら最良の動作だったのか?何時も答えは釣り
の中にあって、その迷宮に入り込んだらちょっとやそっとじゃ抜け出せなくなる。いい釣りをして一つ出口に近づき、下手
をうって又一つ奥へと迷い込む。そうやって釣り人は出れないラビリンスの中を、迷いながら楽しんでいるんだろう。

オオイワナのラビリンス