約束の場所

九月も終盤に入り、朝晩はめっきり涼しくなった頃、残された少しの時間を使ってア
マゴに会いに行ってきた。今年はイワナの谷に行く事が多かったので、今年最後に
なるかもしれない今回の釣行はアマゴのみに焦点を絞ってポイントをセレクトしたの
だ。

最初に入った所は、水量はそれ程多くないものの渓相の良い、いかにも谷歩きをし
ています、っと言うような小谷。本流から直ぐ入った所で大きな滝になっているので、
本流遡上の大型固体は望めないが、綺麗な谷のアマゴが一匹でも見れればOKだ。
 
入沢して1時間、たまに小アマゴがアタックしてくるが、本命のサイズは中々姿を現し
てくれない。「流石にイワナさんみたいに大らかじゃないよなぁ〜」っと独り言を呟きな
がらそれでも進むと、淵の流れ出し付近、付き石の前に良方のアマゴが陣取ってる
のを発見! 

今年の夏に自分のミスで川に奉納してしまった偏光サングラス(タレックス社トゥルー
ビュースポーツ)に変わり、新調した同社のアクションコパーはコントラストを強く出し
てくれるので以前にもまして水の中が手に取るように解るようになったのだ。釣り人
にとって偏光サングラスはかなり強い見方になってくれるのは衆知の事。最近は値
段の割りに十分使用出来る物も多くなってきたが、やはり信頼出来るメーカーの道
具は安心して使える物だ。

話は戻って、一歩後にゆっくり後退して様子をうかがう、まだコチラには気づいてい
ないようだ。フックが甘くなっていないかチェックをしてキャスト。流れに乗せてラーク
を踊らす。付き石の前でUターンを決めるとアマゴは反転してラークを咥えた。日を浴
びた魚体は美しく、水中の石の色とアマゴの色、そしてラークキンクロの色が一つの
纏まりがあり、とても満足のいく一匹との出会いだった。この後、同サイズをもう一匹
追加して次の場所に向かう事にした。

次の場所は、水量も豊富で尺物も期待出来るポイント。名前も知れた所なので先
行者がいない事を願う。しかし残念ながら、入ろうとした所にはジムニーが一台停
まっていた。しょうがないので前者とかぶらない程度の上流から入る事に。足跡は
無さそうなので、夕方までの残された時間をここで締めくくる事にした。

何故、今回の魚をアマゴにこだわったか。それにはもう一つの理由があった。
ビルダー仲間で自分のリスペクトアングラーの一人でもあるエゴイストを主催する
大嶋氏と、「今年はコッチ(岐阜県の水系)で一緒にアマゴを釣りたいねぇ〜」っと
何時も話をしていたのだが、どうしてもお互いの時間の都合が合わず、アマゴ釣り
は一緒に行けなかったのだ。 

そこで、大嶋氏が来れなかった分を大嶋氏のミノー「リーフ」を使って自分がアマゴ
を釣りたいと思ったからなのだ。 ハンドメイドのルアーは製作者のクセが大きくでるもの
で、その人がどのような釣り展開をするかで、製作されるルアーが大きく変わってくる
物。ラークとリーフも同じシンキングミノーでありながらヒラを打つ幅や、ロールのピ
ッチなどは違う。しかし自分の釣り感覚と大嶋氏の釣り感覚が近い物があるせい
か、大嶋氏もラークは使えると言ってくれているし、自分もリーフのヒラウチ感が大
好きで、非常に優れたミノーの一つだと感じているので、なんのストレスも感じる事
なくテンポ良く釣りが出来るのだ。

入沢して直ぐに結果は出た。幸先の良いスタートだ。長い瀬が続いている区間だっ
たので、活性の高い個体が入っていたのだろう。小気味よいリーフのヒラウチに引
っ手繰るアタリがあり、グルングルンとローリングしながら近づいて来たのは、鮮や
かな朱点の入った、紛れもない谷アマゴだった。その後ラークに変えてもう少し釣
り上がると、如何にも、という淵でこれまた良方のアマゴがヒット。

これでお互いこの川では一匹ずつアマゴをキャッチ出来た事になる。これでもう満
足だ。後は来年の楽しみにとっておこう。今年は果たせなかった友との約束の場
所は、今年も来年もその先も、美しく流れて生命を育む事だろう。 

川から上がり道路まで出て車に戻る帰り道。アスファルトには濡れたフェルトのせ
いで足跡が後を何時までもついて来ていた。来年この道をまた歩く時は、きっと二
つの足跡がついて来るんだろうなと思いながら約束の場所を後にした。