こぶし咲きて鱒踊る

今年の冬は本当に雪が少なく、4月上旬は全国的に異常乾燥して山火事が多発
するほど雨も降らなかった。このまま行くと夏には谷の水が枯れてしまうのではな
いかと心配する程だが、山には今年も同じように爽やかな春の風が吹いていた。

4月上旬、今期投入予定の新作プロトを持ち込み、アマゴとイワナに答えを聞くべ
く、とある谷に友人を誘って行って来た。

先ず最初に入ったのは綺麗なアマゴの釣れる小谷だ。国道の直ぐ横を通っている
割にそこまで人が入っていないのか、ピンシャンのアマゴがそれなりに釣れる穴場
のポイントである。入沢して最初に人の足跡を探すが、やはりあるのは鹿や猪の足
跡だけだった。気を良くして進むこと二淵で、友人が直ぐに最初のアマゴを釣り上
げてしまった。サイズこそ小さかったが、二人で『いるねぇ〜』っとニンマリ顔になる。 

大体二人で釣りをする時は1匹釣れた事に交代で釣り上がって行くので次は自分
の番だ。水に手を入れると3月の時とは明らかに水温が上がっているのがわかっ
た。この水温ならかなり活性も高くなって、盛んに虫を捕食している事だろうと、瀬
に出ている魚も意識しつつ釣り上がる。しばらくすると、90度にクランクした淵の流
れの中からヒラを打つミノーを追尾する魚影を発見。 再度慎重に流れに乗せな
がらヒラを打たせてくると、お待ちかねのアタリが竿を伝わってきた。 釣れたのは
20cm前後のピンシャンアマゴだった。


続いて友人、自分と交互に釣れ続け、二人で実釣時間2時間あまりの間に9匹程
のアマゴを釣る事が出来た。 今回のプロトは禁漁期間中に幾つも試作を作った
中の最終品なのだが、やはり机上の空論でなく、実際に流れの中で使用してみ
て、魚の反応をみると、この商品なら自信を持ってアングラーに使ってもらえると
確信が持てた。

アマゴの反応はすこぶる良い事が分かったので今度はイワナの反応を見る為に
谷を変える事にした。何処の谷に寄ろうかと流して運転していくと、まだ新芽が少し
出始めたばかりの薄暗い山肌から、こぶしの花が白く輝きながら咲いているのが
目に留まった。 吸い寄せられるように車を止めて山肌を眺める。

山沿いの街道脇などにもこぶしの木が植えられ、この時期にはよく白い並木道に
なっている所もある。勿論、通れば綺麗だとは思うのだが、何か人工的な作られた
美しさに感じてしまうのは自分だけだろうか? 山奥のこぶしは一箇所に群生して
いる事の方が少なく、少し間を置いて点在しているぐらいの方が自然のありのまま
の美しさを感じるのだ。 

ここで車を止めたのも何かしらの自然が発する信号を受信したからかもしれない
と思い、直ぐ下を流れる谷に入る事にした。先ほどの川と同様に、友人にもプロト
を渡してインプレッションしてもらう事にした。 橋横の降り口から直ぐ近く、友人が
キャストしたルアーが手元に帰ってくる頃には既にイワナがぶら下がっていた。 
友人の引きが強いのか、魚が濃いだけなのか、はたまたルアーがいいのか、こぶ
し様のお導きは偉大な物だった。

この後も、堰堤を二人で苦労して高まきながらコンスタントに良方サイズのイワナ
を釣り続けながら数時間遊び、楽しい汗を掻く事が出来た。今回は、友人の時間
の都合上、イブニングの時間帯まで攻める事が出来なかったうえに、最後の最後
で35cm程のイワナを堰堤下で掛けてバラシてしまい後ろ髪引かれる思いで帰っ
て来たが、どうやらこのミノー、イワナ相手でもしっかり仕事をしてくれるようだ。

山にこぶしが咲き出す頃から、渓魚も盛んに餌を食べ始め、流下物に興味を持ち
始める。雪代も落ち着き水温も安定し始める頃に咲くこぶしの花は、けして派手で
自己主張の強い花ではないのだが、自然が僕達に向けて「そろそろ渓魚も動き出
しましたよっ」と教えてくれるシグナルなのかもしれない・・・