7月終盤、今月最初で最後になるであろう釣りのチャンスをやっとの思いでつかみとり、なんとか釣行記に載せる魚の絵は
押さえる事が出来た。日本各地で災害を起こしている記録的豪雨は、ごたぶに漏れず中部地区にもここ数日断続的に降
り続いていたので、釣りが出来るかどうかそのものも危うかった。そこで、今回は山のてっぺんに位置する水引の早いポイ
ントをセレクトする事にした。

今回は初心者を含む2名が同行してくれたので、計3人での釣行となった。
勿論、自然相手の遊びなので結果に絶対はないのだが、やはり同行してくれる仲間には楽しい思いをして欲しいものだ。
この思いは、決して沢山魚を釣って欲しいと言うものではない。サイズ、匹数に関係なく釣りという自然体験を通して、何か
心に残る良い思い出を持って帰って欲しいっと言う事だ。

AM7:00本流から一気に山を駆け上がりポイント付近に到着。トゥイッチのさせ方などを教えがてら下りた所で、ファーストキ
ャストにファーストヒットと、奇跡のようなスタートを切る事が出来た。最初に魚を見た事で一行の期待は否応無しに高まって
いく。より平たんな所まで移動して今度は、距離を歩きながらの釣りに変更した。天然クーラーの中の沢歩きは、五感全てを
使って自然と一体になれる遊びなので、移動を繰り返すピンスポットのランガンもいいのだが、こちらの方がより自然遊びを
満喫して貰えるからだ。

入沢して程なく、ここでもあっけなく最初の一匹が釣れてしまう。ルアーは勿論売り出し中のBENKEIだ。カラーは視覚性を重
視してチャート系を主体に使って貰った。サイトフィッシング性の高い渓流トラウトフィッシングには、やはりチャート系のカラー
は無くてはならない物だろう。 

和気あいあいと沢歩きは続く。全てキャッチに至らないまでも、ルアーをギリギリまで追って来る姿はかなりの頻度であるので、
友人達のテンションはずっと高いままで保てているようだ。なにせこの沢は水量は多くないものの、魚の濃さ、それもオンリー
ネイティブの濃さはピカイチなのだ。一番の理由は、魚を育む土壌がしっかり残っている事なのだが、意外に車のアクセスもよ
い割りに釣り人に抜かれていないのは、オーバーハングしたトンネルだったり、倒れ落ちた木だったりが、良くも悪くも釣り人の
邪魔をして、魚達の揺りかごを沢山形成しているからだ。故に、この沢はエキスパートアングラーだったら1時間で2桁は難しく
ないだろうが、キャスト精度がイマイチの人は、数匹で終わってしまう事だろう。

管釣りなら未だしも、ネイティブ相手に釣りをするならキャスト精度やルアーの流し方の上達は魚の顔を見る為に避けては通
れない道だろう。何より、倒木の隙間20cm程の所をサイドキャストで狙って、ルアーが吸い込まれる様に飛んでいった時や、
対岸ギリギリにキャストして思い通りにルアーをトレースしてこれただけで、ボーリングのストライクを取ったようなスカッとした
気持ちになれるものだ。

何匹かキャッチしながら釣り上がると、正に今回一番そんなロケーションのポイントが目の前に現れた。上には木が被い茂り、
流れの真ん中には流木が横たわっている。更に水中には別の木があり、難易度はAAA級な所だ。勿論それに見合った魚の
サイズと数が居る。偏光サングラスでそっと覗けば、確認しただけで10匹程度は悠々と泳いでいた。

恐々障害物のない手前辺りを流しても一瞬追ってくるものの食わせのポイントから直ぐに外れてしまうので、定位置にスッと戻
ってしまう。やはり恐れずキャストを決めなければ、こちらの勝ちはなさそうだ。 そこでキャストが出来て相手に気づかれない
ギリギリの所までストーキングで近づき、身をかがめてサイドキャストを決める。ルアーは木と水面の間をすり抜け理想のポイ
ントに着水した。糸ふけを瞬時に取ってBENKEIを踊らすとイワナが団子になってルアーの後を追って来た。そのうち一匹がヒ
ット。すかさず群れから抜き取り、少し下がってキャッチした。このような場合は引きを楽しむよりも直ぐに抜き取って仲間が連
れ去られた事を悟られないようにした方が、何匹も釣れるからだ。リリースする時も、元の淵に戻すより、下流の方にリリース
する方が良いだろう。

未だ、イワナは沢山いる。ここはキャストが難しすぎる為、自分がキャストしてからロッドを直ぐに渡したりして何匹か同じ所で釣
る事が出来た。2時間歩いて皆十分に満足出来たようなので、ここで竿をたたみ直ぐ横を走る道に上がる事にした。丁度雨も降
り始めて終了のタイミングはバッチリだったようだ。

昼からは又、この日も大豪雨に見舞われ、帰りがけの国道横を流れる本流は、午前中釣りが出来たのが本当に運が良かった
と思える程の大増水になっていた。幾ら魚影の濃い所でも一度大水で川が壊滅的になってしまうと、本来の姿まで回復するに
は長い年月がかかってしまう。今、地球という生き物は大きな変動の時期に来ているようだ。もしもその引き金が人間の手の中
にあって、それをもう引いてしまっているのだとしたら。打ち抜いた穴をふさぐ努力も、私達は怠ってはいけない。車内から明け
ない梅雨空をワイパー越しに見上げて、ふとそんな事を思った帰り道だった。

明けない梅雨