暑い、しかし暑い・・・
こんなに暑い日は、速乾性のズボンにネオプレーンソックス&ウェーディングシューズを履いてジャブジャブ川を歩く
に限る。汗っ掻きな自分ではあるが、足元が水で冷やされる為、川歩きをしてもそれ程汗も出ず快適に釣りが出来る
ので夏場はいつもこのスタイルだ。最初にネオプレーンソックスから入ってくる冷水にヒヤッとするが、これがまた夏
の釣りの情緒を感じさせてくれる瞬間である。

今回は高山市内からもそんなに離れていない田舎の里川に行く事にした。川幅もそんなになく両サイドから葦が競り
出しているので、この時期は蜘蛛の巣が川の上に張り巡らされて、釣り人からは敬遠される様な所だ。ではなぜわざわ
ざそんな場所を選んだか?答えは簡単。人が少なければその分魚は抜かれていないから。それに覆い茂った葦や木
の枝がシェルターになっているので、魚達は日の上がりきってしまった状態でも己の危険を気にする心配が少ないの
だ。結果、上から流れて落ちてくる虫を捕食しようと絶えず貪欲になているので、活性が高い事が多いのだ。

畑の邪魔にならない所に車を置き、試しに橋の上から下流に投げてみた。流れに逆らいながらヒラヒラとオーバーハ
ングした木の横を通してくると、早速イワナが出迎えてくれた。なんとも幸先の良いスタートだ。土手を降りてイワナを
放し、改めて上流に向かって歩き出す。二日前の雨で増水した水位がまだ戻りきっておらず、流れも少し強い感じは
したが釣りをするには上出来な状態だった。

前を見ると目の高さには何本もの蜘蛛の巣が川を横断して張られている。確実に先行者が居ないと分かるので、釣り
をする上では厄介な蜘蛛の巣だが、吉報を知らせるラッキーラインとも取れる。それに、流れる水と周りの緑に対して、
幾重にも張られた蜘蛛の巣は太陽光で白く輝き、ある意味アートな空間を作り出していると感じる程だ。今日は又、格
別に日差しが降り注ぎ、正に蜘蛛の巣日和と言える天気だ。否応なしに気持ちは高ぶっていく。

蜘蛛の巣をキャストしたラインで切ったり、弾道の低いキャストでかわし、数匹の小イワナと遊びながら進むと、如何に
もヤマメの好きそうな瀬から淵につながる場所が目に入ってきた。蜘蛛の巣で痛んだラインをチェックして結び直し、気
合の一投。アップで放たれたベンケイハードシンキングモデルは、直ぐに押し戻されてしまうような速い流れの中でも、
自重の利いたヒラウチで、少しでもその場に留まろうとしてくれるので、魚に食わせの時間を多く取れるメリットがある。
リーリングを流れに同調させヒラを打たせていると、引っ手繰るような当たりと共にギラリと銀色の魚体が翻った。

流れに乗せて寄せてくると、完璧な体つきをした24cm程度のヤマメだった。この川の規模でこの体高なら、十分マック
スサイズと言って良いだろう。鰭の白さが印象的な一匹だった。

蜘蛛の巣日和

そこから一時間程かけて良型イワナを4匹追加しながら、堰堤までやってきた。途中、元気の良い一匹にまだプロトで残して
おいたハードシンキングベンケイを葦の中まで持って行かれて、ベンケイ事ラインが切れて逃げられてしまったのが痛かったが、
どうにかルアーが魚の口から外れてくれるのを願わずにはいられない。


堰堤には折りからの豪雨で流されてきた流木が魚を守るように邪魔をしていた。一番深い真ん中辺りは木が邪魔をしてとても
ルアーをトレース出来そうに無かったので、縁側の流れが巻いている辺りを底の方から丹念に探っていると、一気にロッドが深
みの方に持って行かれた。一瞬でデカイと感じたので即座にロッドワークで流木側に行かせない様にして、浅瀬まで引きずり
出して来る。、がっつりとベンケイを咥え上がって来たのは、鼻の曲がりかかったイワナだった。イケスを作ってメジャーをあてる
と尺ちょっと超えた31cmだった。引きがかなり強かったのでもっと大きいかとも思ったが、ふてぶてしく「なんだよっ!」っとこっ
ちを見る可愛らしい目に、「サイズじゃないよな、すまんすまん」っと謝りながらフックを外してやると、勢い良く元の深みに戻っ
て行った。

今日はもう十分だなと思えた。
釣り始めて1時間半程度、この場所に来るのに家から2時間半程かかる。自分にとってはそれ程遠い距離でもないが、かと言っ
て近所と言う感覚でもない。満足とは必ずしも時間には比例しないと言う事だろう。
知り合いのシェフがいつもこんな事を言っている
「安くて大盛りのファストフードは、お腹は満たされても心までは満たされない、
 本当に美味しい物を口にした時、人は量とは関係なく心が満たされるものだ」

きっと遊びもそんなトコだろう。
帰り仕度をすませ、車に乗り込む。
ハンドルを切ると、無性にシェフの作るパスタが食べたくなった・・・