婚姻色のブザービート

禁漁二日前、「エゴイスト」大嶋氏との釣行から帰宅したのが、PM8:00を回っていた。何時もなら車からウエダーなどを出して乾か
しておくのだが、その日はそんな気になれなかった。明日は雨が降ると分かってはいたものの、明日で来年まで釣りに行けなく
なると思うと、やはり最後にもう一回と言う気持ちがそうさせたのだろう。

そして次の日、目が覚めるとまだ雨は降っていない。朝ごはんを食べながら行こうかどうしようかの攻めぎ合いが始まった。
結果、何時もの事ではあるが衝動を抑えきれず今年最後のアブラビレを拝みに行く事に・・・

写真を撮り終えてメジャーを当てると顎がしゃくれた勇敢な顔の方が31cm、体高があり気品に見満ちた顔の方が28cmだっ
た。あまりにも綺麗な固体だったので、もっと大きく見えたが、この二匹の完璧な美しさは大きさ以上の輝きだった。こんなに良
質 なDNAが後世まで残ってくれたらいいなっと思いつつ、二匹を放すと元気に元の所に泳いで行った。

正直、自分で言うのもなんだが秋の婚姻色がでた大物を釣るのは難しい事だ。実際この後、40cmを遥かに超える固体を近く
で確認したが、どれだけルアーを通しても全く反応すらしなかった。どれだけテクニックを磨いても結局は魚の事、人間には理
解しきれない、なんらかのタイミングが釣果を左右する事は否めない。

だからこそ釣りは面白く、奥が深いのだ。全てが人間の思うようになる遊びなんて、こんなに長く続けれるはずもないし、こん
なに多くの人を魅了する力はないだろう。頑張っていればたまにこんなご褒美も待っている。

またこれで今まで以上に釣りが好きになりそうだ。

そして流れついた堰堤がらみの一級ポイント。抜かれていなければどう考えても居ないはずはないテッパンの大場所だ。数日前の
増水で下から産卵遡上の固体がさして来ている事を願いつつベンケイのOMOWAZAをキャストした。水深がある場所だがヘビィ
ーシンキングなので、流されきる前にスッと狙いたい水層まで達してくれる。さっきまで強めに降っていた雨も、今は小雨になって自
分に味方をしてくれているようだ。流れに乗せながら大きな沈み岩の前を通すと大きな魚影がOMOWAZAに今にも食いつきそう
な距離で着いて来た。それも2匹もだ。

うまく立ち居地を取れていたので、ありがたい事にまだ食わせのタイミングは作れそうだ。そのまま小刻みにシェイクをすると前の一
匹がヒットした。尺を超えた事は確信したが、何より婚姻色がバリバリに出ている姿にシビレながらも、もう一匹の事も考えて素早く
ランディングをした。

ルアーが付いた状態で数枚写真を撮ったら魚を傷つけない様に、シンドラー製の携帯ライブバックに魚を入れて回復を待ちながら
しっかり写真を撮る為のイケスを作る。確実に今年一番のグッドフィッシュだ、綺麗に写真にも残してあげたい。


少ししてほとぼりが冷めたので更に残りの一匹を狙ってみる。同じ所に帰って行ったのを確認してあるので、さっきと同じトレースラ
インで引いてくる。半分期待と、半分そこまで甘くないだろうという気持ちでポイントを流すと、なんと先程と同じテンションでさっきの
一匹が追ってきて、そのまま一気にOMOWAZAを引っ手繰って行った。このサイズの連続ヒットは流石にそれ程経験がないので、
取り込みも慎重になった。取り込み終わると、思わず両腕を高らかに上げ、ガッツポーズをして一人で幸せを噛み締めた。

どうせ行くなら秋アマゴが釣りたいと思い、昨日の水量を考慮して釣りが成り立つ場所を選定する。幾つかの候補の中から今年は
飛騨川の上流でラストを飾る事にした。良くも悪くも飛騨川水系は幾つものダムで川が分断されているので、雨の影響を受け難い
というのが今回の選定理由だ。車に乗り込めば気持ちは既に川の中だった。

昼小前に到着、フロントガラスにはパラパラ雨粒が落ち始めた。時間が勿体無いので直ぐに釣り開始。時期的に網が入っている事
は分かっていたので、網の張りにくい所に降りて100m程歩くと最初の一匹がヒット。朱点も小さく絵になる23cm程度のアマゴだ
った。ちゃちゃっと写真を撮らせてもらいご帰宅頂く。滑り出しはなかなか良い。問題はこの雨が何時までもつかだ。


もう少し上がったが反応がないので、一気に車で場所移動する事に。幾つかの場所をハイペースでランガンするも、その後釣れた
のはイワナが1匹だけ。そこら中に足跡があり禁漁を前にして、皆も考える事は一緒なんだと、思わぬハイプレッシャーを痛感して
更に場所移動を重ねた。