途中、お手製おにぎりをほお張って休憩を入れながら楽しい時間は続く。ここには街では味わえない非日常が存在す
るのだ。渓流を歩きながら釣りをすると言う好意は決して安全な遊びとは言いがたいのは確か。鹿などの死体もよく目
にする生と死が混在する世界だ。僕達も気を抜いて一つ判断を誤れば大事になりかねない場所に足を踏み入れてい
るのだ。自然への恐怖、自然への敬意を絶えず感じさせてくれるのが釣りの醍醐味なんだろう。「いま、ここに自分は
生きている、存在している」と心から強く感じるのは僕だけだろうか。

生きると言う事に全ての力を注いでいるから魚達は美しいんだろう。彼等は全ての行動が生と死に直結している、だか
らこそ彼等の命を奪う事に成りかねない道具にも敬意を払い魂を込めなければと、ふと思った釣行だった。

更に進むと霧が晴れて日も差し込みだした。この場所はそれ程ブイが多い所ではないが多少まとわり付いていたブイ
も退散し始めた頃、待望のヤマメさんがヒット。それも体高のある25cm程の痺れる程に綺麗な谷ヤマメだった。プロト
ミノーのお腹に両面テープで板鉛を貼りながら重さの調整をしている途中で釣れた一匹だった。これでまた答えに一つ
近づいた気がする嬉しい一匹だった。前の日の降雨で水位が何時もより高く流れも早かったので魚が定位している場
所も少し後ろに居るだろうと言う判断がハマッた一匹でもあった。

一匹顔が見れた事で二人のテンションは一気に上がりキャストの精度も更に増す。今度はヨシ君に釣って貰おうと、
いい場所をどんどん打って行って貰うと、少し行った所でヨシ君にもイワナがヒット。写真を撮る前に逃がしてしまっ
たが谷イワナらしい綺麗なイワナだった。

更に尺絡みのイワナを何匹か追加しながら上がって行くが、流石に標高の高い山から落ちる水だけあって日が昇っ
ても直ぐに水温は上がらない。この時期はドライパンツにネオプレーンソックスを履いてそのままジャブジャブ川に
入って行くのだが、腰まで水に浸かりながら遡行する時は二人で「うおぉ〜ちじみあがるぅ〜!」っと叫んでしまう程だ
った。お陰で汗掻きな自分ですら一滴の汗も掻かない程に暑さは一切感じない遡行だった。

生を感じる

周りがお盆休みも終わろうと言う頃やっと丸一日休みが取れたので、兼ねてから誘いのあった親友ヨシ君と飛騨の渓流
を目指し車を走らせた。今回入った宮川水系の川は入渓点が判りにくく周りに木が覆い被さっているので夏場でもアブレ
る可能性の低い所なのだ。天気も曇ってはいるが雨が降る感じではないので釣りをする前からワクワクが止まらない。

しっかり虫除けスプレーを全身にかけて準備を済ませたのがAM6:00。涼しいと言うより肌寒ささえ感じる気温だった。川ま
で降りると全体に霧がかかり更に気温は低い。さて、調子はどうかな?っとプロトミノーを数投するが反応は無い。「まぁ〜
時間はまだ存分にある、数匹でも釣れれば心は十分満たされるんだから」っと気持ちを切り替えどんどん上がって行く事
にした。ヨシ君はベンケイを使って、僕は幾つか持ってきたプロトをとっかえひっかえ弄くり回しながら釣り上がって行くと、
僕のルアーに最初の魚が会いに来てくれた。最初に釣れたのはピンっとヒレがたった28cmぐらいのイワナだった。淵の
頭の岩盤に流れが当たった場所から一気に食いあげて来た一匹だった。